キミノタメノアイノウタ
……自分でも信じられないくらい下手くそだった。
声も伸びないし。声量も足りない。高音は掠れて聞くに耐えない。
……それでも歌った。
俺達はふたりしてボロボロと泣きながら歌った。
風に乗った歌声はこの町を越えて、俺がいた街も越えて、ハルの元に届いただろうか。
耳を澄ませると、歌声に混じって波の音が聞こえた。
林からはヒグラシと、鳥の声が。
畑からは成長途中の野菜の苗の葉擦れの音が。
気まぐれに吹く風は全てを包み込んで、またハルの元へ歌を運んでいく。
この町には沢山の音が溢れていた。
そして、世界には俺の知らない音がまだまだ沢山あった。