キミノタメノアイノウタ
(これで見納めだな…)
俺は夜の海にこっそりひとりでやって来た。
今日は雲もなく月がよく見えていた。
波も穏やかで、まるで俺の心を映しているようだった。
この町にやって来てから色んなものを見た。
……綺麗なものばかりだった。
海も空も山も、そこに住んでいる人たちも。
今なら侑隆が俺をこの町連れてきてくれた理由がわかる気がする。
ここでは全てのものが生き生きとしていた。
歌えなくなって沈んでいた俺には眩しいほどだった。
きっと侑隆も立ち直るきっかけにして欲しかったんだと思う。
(不器用なやつ)
こんな間接的なやり方じゃないと言いたいことも伝えられないなんていつか損をする。
俺はいつもの堤防ではなく、砂浜へと歩き出した。
靴と靴下を脱いで、波にさらわれない位置まで放り投げる。
海水に足を浸すと、足先から背筋にかけて悪寒が走った。
(冷たっ!!)