キミノタメノアイノウタ
「いただきます」
カチャカチャと食器を叩く音が、静かな室内に響き渡った。
私はフォークを咥えながらチラリと、前に座る兄貴と父さんの様子を盗み見た。
2人とも黙々とさらに盛り付けたパスタを口に運んでいく。お互いの存在を無視しようとしているのがかえって不自然だった。
(やっぱりな)
予想通りの重苦しい雰囲気に、心の中でひとりごちる。
父さんから少し遅れて家に戻ってきた兄貴は、玄関に揃えられて父さんの靴を見るなり顔をしかめた。
食卓に二人が並ぶと緊張感がより一層増した。とうとうこの時が来たのだなと、いつ罵声が飛び交っても良いように身構える。
そんな一触即発の空気を変えたのは灯吾だった。
「あの……ご挨拶が遅れました。今日からお世話になります。古河灯吾です」
丁寧な挨拶に父さんはチラリと灯吾を一瞥した。
「ああ」
あまりにも素っ気ない返事に私は呆れた。遠い所からやって来た客人を歓迎する意思もないのか。
「ご馳走様」
兄貴はいつの間にかパスタを完食していて、使った食器をシンクに置いて部屋に戻っていった。
数年振りの親子の再会にしては何とも言えず味気ない。ほっとすると同時に、少し寂しい。
(早く、母さん帰ってこないかな……)
まだ半分以上残っているスパゲティを惰性で口に運びながら、私は母さんの帰りをひたすら願っていた。