キミノタメノアイノウタ

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その夜のことだった。

ガタンッという物音で私は目を覚ました。目を覚ました途端にハッと気がつく。

「うわ…」

(また電気つけっぱなしで寝ちゃった)

電気スタンドの光で目がチカチカした。

あくびをかみ殺しながら、身体をほぐすように伸びをする。学習机に突っ伏して寝ていたせいか腰が痛い。

机の上のノートには解きかけの数学の問題と、とても文字とは思えないシャープペンシルの黒い線が点々と残っていた。半分寝ながら書いていたのだろう。

うたた寝特有の嫌な汗をかいたせいか、ひどく喉が渇いていた。

(お茶でも飲むか)

私は自室の襖を開けて縁側を通ると、台所に向かう。

コップに注いだお茶を一気に飲み干したところでふと、あのガタンという音の正体が気になりだした。

(まさか泥棒……?)

恐る恐る辺りを見回すが特段変わったところは見受けられない。

ホッと胸を撫で下ろしていると、今度は玄関から同じ音が聞こえる。

廊下からそっと様子を窺うと、靴を履いている灯吾の後ろ姿を発見した。

(なんだ……灯吾か……)

不安に襲われていた気分が払拭されると同時に疑問が湧いた。

……こんな時間にどこに行くのだろう。

時計を見ると、既に時刻は深夜の1時を過ぎている。散歩にしては少々遅すぎるのではなかろうか。

そうこうしているうちに、灯吾は玄関扉を開けて外へと出かけてしまった。

……私は灯吾と同様に靴を履いて、こっそりその後を追いかけた。

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