キミノタメノアイノウタ
灯吾の足は迷いなく前へ、前へと動いていく。
月明かりのおかげで、外灯がなくても簡単に後をついて行くことが出来た。
やけに明るいなと思って空を見上げると、今日は満月だった。
(欠けたるころも……なんとやらだ)
思わず古文のひと歌を口ずさむ。
追いかけたは良いものの、今更になって悪いことをしている気分になってくる。
道に迷ったら困るのは私じゃなくて灯吾だと、心の中で言い訳しても芸がない。
でも、私は。
……どうしても知りたかったのだ。
ザクッザクッと砂利を踏む音だけが辺りを支配している。黙々と歩いていく灯吾を見失わないように後をつける。
時間にしてみれば数分のはずなのに、私にはその時間が永遠に続くようにも思えた。
段々と道が開けてくる。
鬱蒼と茂っていた木々がその姿を隠していく。
次第に潮の香りがきつくなってきた。
辿り着いた先は……海だった。