キミノタメノアイノウタ
(焦った……)
家を出たところで、思わず胸を押さえる。
兄貴は昔から変に勘がいい。私が隠し事をして兄貴にバレなかったためしがない。
……昨夜の出来事は私だけの秘密にしておくつもりだった。
なんとなく、言い触らしてはいけないような気がした。
あの時の灯吾は昼間とはまるで別人で。
海に向かって歌う姿は、神聖な儀式のようにも思えて、声をかけることさえ躊躇われた。
とにかく、私は兄貴に昨夜のことを隠し通すと決めたのだ。
気を取り直して学校へと歩き始める。
右手に海を見ながら海岸沿いの道路をひたすら歩くこと20分。
そこから更に坂を上って10分。
この田舎町を見下ろすことが出来る高台に、この町唯一の高校がある。
(きつ……)
学校に行くたびに思う。
……坂の上に学校なんて建てるな。
夏の暑さも坂の傾斜も決して容赦してくれない。照りつける太陽にへばっていると、同じような姿の奴が前にもいた。
……ただし、そいつは自転車を引いていたけれど。