キミノタメノアイノウタ

「奏芽(かなめ)!!」

名前を呼ぶとバカな男は汗が飛んできそうなくらい勢い良く振り返って、ニカっと歯を出して笑った。

「瑠菜!!いい所に来た!!手伝え!!」

「はあ!?」

陽に透けるほど明るい茶髪頭がこちらへと近づいてくる。

「もう限界……。ここ持って押してくれ!!」

奏芽は私の手をとって、自転車の後輪を押すように指示した。

(バカかこいつ……)

「手伝ってもらうくらいなら、最初から自転車で来なきゃよかったでしょう?」

「瑠菜はわかってないな!!この心臓破りの坂を上から自転車で下る!!その爽快感!!」

これが男のロマンだ、なんて叫ぶ奏芽の隣をスタスタと通り過ぎる。すれ違いざまに思い切り舌を出す。

「バーカ」

(付き合ってられるか。ひとりで勝手にやっていろ)

アホなことばかり言う幼馴染の面倒なんて見てる暇なんてこちらにはない。

「瑠菜ー!!俺、このままだと夏期講習遅刻しちゃうぞー!!」

(うっ!!)

痛い所をつかれる。さすが生まれた時から一緒だっただけのことはある。

渋々後ろを振り返ると、奏芽は再度二カッと歯を出して笑った。子供のような八重歯が小憎らしい。

夏期講習に無遅刻無欠席ならお前に単位をくれてやると、夏休み前に担任が奏芽に向かって高らかに宣言していたことを忘れるはずがない。

「仕方がないなあ…」

私は自分のカバンを自転車のカゴに乱暴に突っ込んだ。

「その代わり、帰りは家まで送ってよ」

「えーっ!!めんどい」

奏芽の文句も聞こえないフリをして自転車を押す。

私はこの暑い中、奏芽の自転車を後ろから押して学校の校門をくぐったのだった。

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