キミノタメノアイノウタ
「だって仕方ないじゃない。親が家を出るなら大学受かれって言うんだもん。しかも国公立大学なんてさ」
私の成績知ってて言うんだからホント意地が悪いよねと、千吏が口を尖らせる。
「私は絶対にこの田舎町から出て行くの」
確固たる意思が感じられる千吏の真顔に、私は視線を逸らすことができなかった。
……千吏がそんなことを考えていたなんて、私はつい最近まで知らなかった。
「でも、この夫婦漫才が見れなくなるのも惜しいわよね」
あとから付け足された言葉に、思わず笑いが洩れる。
でも、私は知ってる。
そんなことを言っていても、千吏はきっとこの町を出て行く。
私達が過ごしてきた年月よりも、都会への憧れの方を取るというのか。
その気持ちに迷いが見えないだけに。
私は余計に寂しい思いをしていた。