キミノタメノアイノウタ
「ねえ」
自転車の鍵を外していた奏芽に向かって話しかける。
夏期講習が終わった後隠れてコソコソ帰ろうとしていた奏芽を捕獲することに成功した私は、約束通り家まで送ってもらうために駐輪場に同行した。
グラウンドからは部活に勤しんでいる後輩達の元気な声が聞こえてくる。
気合の入った掛け声に負けないように、大きな声で尋ねる。
「奏芽はここに残るんだよね?」
「まだ気にしてんのかよ、お前は」
やれやれと言いながら奏芽は自転車を駐輪場から出した。スタスタと歩く、その後に続く。
「千吏は元々あっちから引っ越してきたんだから、戻りたがるのも仕方ないだろう?」
千吏は私や奏芽と違って、この町で生まれたわけじゃない。
小3の時に父親の生まれ育ったこの町に引っ越してきただけであって、私や奏芽よりは故郷に対する愛着は薄いのかもしれない。
グラウンドをすり抜けて校門までやってくると、乗れよと奏芽に促される。
私はタイヤをまたいで荷台に腰掛けた。
奏芽のリュックにしがみつけば、もう準備は完了だ。