キミノタメノアイノウタ
「そうだけどさ。寂しいじゃん。私達って何だかんだでずっと一緒だったし」
「そうだなっ。っと、行くぞー!!」
ガチャンと奏芽の足が自転車のストッパーを外す。
サドルに跨ってペダルを踏み込めば、自転車は当たり前のように前へと進む。
加速していく自転車が私の心の中にある複雑な想いを乗せていく。
さっきまでうるさいくらいに聞こえていた運動部員の掛け声が小さくなっていった。
この目に見えるものは奏芽の背中と、次々と流れていく景色だけになる。
「お前さあ、本当にS大の推薦受けんの?」
もうすぐ、下り坂に差し掛かる。
ハンドルを握りしめていた奏芽の指がブレーキへと伸ばされる。
「なんでそんなこと聞くの?」
「S大だったらここからでも通えるじゃん。地元に残んの?」
「うん」
S大はこの町から一番近い国立大学だった。
車と電車を使えば2時間くらいで通える。うちの高校でもS大を目指す人は多かった。
……他に選択肢がないというのもあるけれど。