キミノタメノアイノウタ
奏芽の問いかけはまだ続いていた。
「W大はいいのかよ。この間まで第一志望はW大だっただろ?」
「うん。W大はもういいの……」
W大はここから電車と新幹線を乗り継いで4時間ほどかかる。こんな田舎と比べるのもおかしいくらい、発展している街中にある大学だ。
もちろん、ここから通うなんて到底無理な話で。
……そう、最初から無理な話だったんだ。
「親父さんに反対でもされたのか?」
「……違う!!私が……決めたの!!」
私の声は風の音にかき消された。
自転車の車輪がクルクルと回る。海が太陽の光を反射してキラキラと光っているのが見えた。
……綺麗だった。
奏芽が男のロマンだなんだとか言っていたけれど、それも分かる気がした。
奏芽はそれ以上、志望大を変えたことには触れてこなかった。
「今、侑隆さん帰ってきてんだろ?」
「そうだよ」
「あとで会いに行くな」
奏芽はわざとらしく明るい声で言った。
行きは上るのに10分もかかる道のりが、帰りは一瞬で終わる。
……この下り坂のように私達の夏も直ぐに終わってしまうのだろうか。
そんなことを考えながら、私は奏芽のリュックにしがみついていたのだった。