キミノタメノアイノウタ

「学校は?」

「今日は終わりだよ」

夏期講習自体は夏休みが終わるまで続く。夏休みが始まる前に配られた予定表を見てげんなりしたのは、奏芽と千吏だけではない。

この田舎町は進学塾もなければ、家庭教師を呼べるような立地にあるわけでもない。

なにがなんでも合格させるという教師陣の気合を感じてちょっと怖い。

私は両腕を空に向かって伸ばして、体のコリをほぐした。息を深く吸って肺にこの潮風を送りこむと、やっと解放されたような気分になる。

(灯吾はいいなあ。暇そうで)

Tシャツと肌の隙間にくっきりとついた日焼けの境目が、白い肌に映える。

「いつからここにいたの?」

「昼飯食ってから」

私は驚愕した。

(今、何時だと?)

灯吾が真っ直ぐ見つめている海では、既に夕暮れが始まろうとしていた。

「海ってそんなに珍しい?」

「珍しいというか……面白いな」

(面白い……?)

首を傾げた私を見かねて灯吾が説明しようとする。

「なんか……絶え間なく波が打ち寄せてくるのがさ。こう……なんて言うか……」

うーんと腕を組んで唸りだすものだから、こちらだって困ってしまう。

身振り手振りを交えても、口から発せられるのはあーとかうーとかそんなものばかりで。

「ごめん、もういいや…」

とにかく、灯吾の感性が常人とは違うということだけは伝わった。


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