キミノタメノアイノウタ
「まあ、俺は海が気に入ったってことだな」
最後にそうまとめると、灯吾は小さく笑った。
説明のつかない感情を分け合うことを諦めたようだ。
(夜中にこっそり来るほど、気に入ったの?)
私は喉から出かかった問いをこっそり胸にしまいこんだ。
ボウッと月の光で輝く水面に。
波の音と灯吾の歌声が重なって。
伸びのあるテノールはとても綺麗で、繊細で。
無防備だった心に深く染み渡った。
……私は気がつくと涙を流していた。
胸が詰まってどうしようもなくて。
“灯吾の歌をこれ以上聴いてはいけない”
本能がそう判断して私はその場から逃げるように走り出した。
部屋に戻って頭から布団をかぶっても。
……ずっと頭の中には灯吾の歌が響き続けていた。