キミノタメノアイノウタ
「……そんなのお互い様だろ?」
意味深なセリフの裏にある真実に気が付いて、私は今度こそ心臓が飛び出るかと思った。
(もしかして、昨日のこと……)
隣で素知らぬ顔をしている灯吾を凝視する。沈黙は肯定と同じことだった。
「当たりだな」
……かまをかけられていたことに気が付いたのはその時だった。
「悪趣味」
灯吾は堤防の淵から立ち上がって服に着いた埃を払うと、そのまま道路の方に歩いていく。
「気づいていたの!?」
私も慌てて立ち上がって、その後を追いかける。灯吾は背中を向けたまま言った。
「家に帰ったら出かける前は揃ってたお前のスニーカーがバラバラになってた。それだけ」
灯吾はそれ以上、何も言わなかった。
灯吾を追いかけていた私の足が徐々に止まっていく。
潮風が私達の間をすり抜けていった。
昨日と同じ後ろ姿が妙に遠く感じられた。