キミノタメノアイノウタ
「本当に、あのバカ兄は仕方ないなあ……!!」
瑠菜は悪態をつきながら、自分の使った食器と用意していた侑隆の分の食器を片付けた。
……かと思うと今度はバタバタと慌ただしく廊下を走って行った。
再びダイニングに戻ってきた時には、瑠菜の肩には茶色い革のショルダーバッグがかけられていた。
「じゃあっ!!私、今から出掛けてくるから」
あとは適当によろしくと、手を振る。
「どこに行くんだよ」
奏芽くんが不思議そうに尋ねる。
「千吏のとこ。あっ、友達のことね」
瑠菜は俺にも分かるように付け加えると、壁にかかっている時計をチラリと見て焦ったように言い放った。
「うわっ!!もう、行かなきゃ」
駆け出していく背中に奏芽くんが声をかける。
「送ってってやろうか?」
「大丈夫。すぐそこだし!!」
やがて玄関の扉が閉まる音がして、シーンとしたダイニングにタツさんの呟きがひどく響いた。
「フラれたな……」
瞬く間に奏芽くんの顔が赤く染まる。
「うるせーよっ!!」
速攻で突っ込んだ奏芽くんの後ろに見覚えのある人影があって、俺は息を呑んだ。