キミノタメノアイノウタ
5
思い返してみると、幼い頃の私は兄貴の後を追いかけてばかりだった。
年の離れた兄貴のすることにいつも興味津々で、一緒にいなければ気がすまなかったのだ。
子供の好奇心ってすごいと思う。
私は身体の大きな兄貴達に負けじと、海に入り、山を駆け抜け、どこまでもどこまでもついていった。
大概、タツが見かねて苦笑いしながら私の手を引っ張っていってくれた。
よくやるな、とタツには感心されていた。
まだ幼かった私にとってタツ達はすごく大人に見えた。
あの頃はそんな小さな大人に早く追いつきたくてたまらなかった。
そんな私を兄貴はどう思っていたんだろうか。
私は兄貴が家を出て行く時もその背中を見ていた。
黙ってスニーカーを履いている兄貴の傍にはスポーツバッグが置いてあって、それが普段の外出と唯一違うところだった。