キミノタメノアイノウタ

思い返してみると、幼い頃の私は兄貴の後を追いかけてばかりだった。

年の離れた兄貴のすることにいつも興味津々で、一緒にいなければ気がすまなかったのだ。

子供の好奇心ってすごいと思う。

私は身体の大きな兄貴達に負けじと、海に入り、山を駆け抜け、どこまでもどこまでもついていった。

大概、タツが見かねて苦笑いしながら私の手を引っ張っていってくれた。

よくやるな、とタツには感心されていた。

まだ幼かった私にとってタツ達はすごく大人に見えた。

あの頃はそんな小さな大人に早く追いつきたくてたまらなかった。

そんな私を兄貴はどう思っていたんだろうか。

私は兄貴が家を出て行く時もその背中を見ていた。

黙ってスニーカーを履いている兄貴の傍にはスポーツバッグが置いてあって、それが普段の外出と唯一違うところだった。

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