キミノタメノアイノウタ

「瑠菜?」

気が付くと、目の前で千吏の掌が左右で揺れていた。

「どうしたの?ボーッとして…」

深く考え込んでいる内に、千吏は問題を解き終わったようだ。

私は心配をかけないように明るく答えた。

「ううん!!なんでもない!!ちょっと疲れているのかも」

「奏芽の世話で?」

千吏が待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。

「あははっ!!奏芽っていうより兄貴が帰ってきたせいかな…」

……揺らぐのはそのせいだと思いたい。

「あっ、やっぱり帰ってきてたんだ。ママが侑隆さんにそっくりな人を見たって言うからさ」

「多分、それ兄貴だよ。たまに出掛けてるみたいだし」

何をしているかは知らないし、聞こうとも思わないけれど。

兄貴が何をしようと私には関係ない。勝手知ったる自分の庭なんだから、好きにしたらいい。

今さら何をするっていうんだ。

……自分が捨てた町に。

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