キミノタメノアイノウタ
「お邪魔しました」
「また、来てね」
千吏のママは柔和な笑みを浮かべて娘の友人を見送ってくれた。
この人から千吏のようなやかましい子供が生まれるなんて未だに信じられない。
私は自転車に跨がって一路、自分の家を目指した。
自転車のライトをつけて砂利道を走れば、夜空には私を見守るように無数の星が瞬いていた。時折、潮風が頬を撫でていく。
私はひたすら左右の足を動かした。うだるような暑さにうっすらと額に汗が滲む。
この町は昔から何ひとつとして変わっていない。
……変わったのは私達だった。
“おにいちゃーん!!待ってよう!!”
兄貴とタツを必死になって追いかけていた道を。
……私は今、ひとりで走っていた。