キミノタメノアイノウタ

「ただいま」

そう言って居間の襖を開けると、父さんがひとりでテレビを見ながら晩酌をしていた。

「今、帰ったのか?」

父さんは私を見るなり怪訝そうに言った。

夜間外出は不良の始まりとでも言いたいのだろうか。

私は父さんの感情を逆なでしないように尋ねた。

「うん、遅くなってごめん。母さんは?」

「風呂だ。母さんが出たらお前も入りなさい」

「はーい」

父さんはさっとテレビに視線を戻した。何の変哲もないスポーツニュースを飽きもせず見ている。

他に趣味や好みはないのかとつい聞きたくなる。

まあ、兄貴と血みどろの喧嘩をしていないだけましではあるが。

自室に戻ろうと、居間を通り抜けようとする。

……まさにその時だった。

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