清皇学院記

「おい、行くぞ。

ちゃんと歩けよ」


 神楽は、玲華の腕を

強引に引っ張っていた。

玲華は出来る限りの思考回路を

働かせ、さっきまで自分のいた倉庫

までの道と住所を割り出そうと

していた。


 ここは、どうやら初めて

来る場所ではないことに、玲華は

気がついた。誰かの家の近くで。

「もういいです。あんな酷いこと

する人と一緒に歩きたくありません」


 玲華の表情はまるで催眠術に

かかったかのように、無表情だった。

「そういうわけにはいかねぇんだよ。

これは瀬戸の命令だし。

まぁ、お前がいいっていうならな。

迷子になっても責任はとらない」


 神楽はやれやれと首を横に振り、

玲華の腕を掴む手を離した。


 玲華はようやく思い出すことが

できた。ここは去年、同じクラスで

何回か家に遊びにいかせてもらった

記憶がある。小海亜樹菜の家の近くだ。


 小見亜樹菜。日本人なら一回は

聞いたことのある大手電気メーカーの

社長の孫だとか、そのようなことを

きいたことがある。


 玲華は蓮を助けるために、そして

あの、残虐な組織を破滅させる

ために、小見家の力を借りようと

思っていた。
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