清皇学院記
「ちょっ…」
「まぁ、許してよ。いいんちょさん」
「分かった、今回だけね」
玲華はこの緊急事態を免れるため
特別に見逃すことにした。
「こっち来いよ。目立つだろ?」
玲華の腕をぐいっと引っ張り、
建物の影に入る。
6月の初夏の日差しを避けて、
涼しい風が吹いている。
「あー、もしもし、康?蓮だけど…今平気?」
康というのは、蓮と玲華と同じ班の
メンバーである、蓮の親友だ。
蓮のケータイの受話器から、
康介の話声が聞こえる。
「今俺らさ、聖園通りの杉野ビルの下
にいる…、うん、科野も一緒」
蓮が電話している間、玲華はいろんな
意味で鼓動が早くなったような気がした。
今電話しているところを誰かに見られたら
大変だから?それとも―――。
蓮と二人きりだから?