ブラックピース
「ただいま」

 夜、夕食を食べ終わり、明日の学校へ行く用意の途中、待ちわびていたお父様が帰って来た。


 何故、待ちわびていたかって??フフフ……それは……。


 僕は使用人達の間を縫って、お父様のもとへと走って行った。


「お帰りなさい!!」

 僕は勢い良くお父様に抱きつく。お父様はバランスを崩し、倒れてしまった。

 そしてそんな光景を見ていた使用人達は、揃ってヒステリックな声を上げている。

「毎度毎度勘弁してくれよ、ルーラス」

 お父様はヨロヨロと起き上がると、力なく僕を見て微笑んだ。

「妻より先に息子に抱きつかれるとはねぇ……」

 そう言い、お父様は僕の頭をそっと撫でる。

 僕は待ちきれなくて、遂に言った。

「ねぇお父様!! ……例のモノは??」

「例のモノ?? ……ああ!! あれか」

 お父様はポン、と手を叩く。

 その後一度周囲を見渡すお父様。一通り見回したあと、お父様は小声で僕に言った。

「流石にここでは渡せないから、夜、私の部屋へ来てくれ。 その時に渡すよ」

「今も夜だけど……」

「おっと!! 忘れてた。 じゃあ、深夜零時で……」

 僕は時計を見る。

 ……時計の針は、八時を差していた。

「えっ!! 後四時間も待つの?!」

「そういう事だね。 じゃあ、私はこれで」

 お父様は爽やかスマイルでそう言うと、鞄を近くにいた使用人の一人に預け、どこかに行ってしまった。

 取り残された僕。

 暫くぼうっとしていたら、使用人に注意された。

「ルーラス様、そんな寒い所で立っていたら、お風邪を召されてしまいます。 早くお部屋へお戻り下さいませ」

 表情一つ変えずにそう僕に言う使用人。まるで言葉しかメモライズされていないロボットのようだ。

「今行くよ」

 僕は自室に向かってトボトボと歩いて行った。
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