魔女の瞳Ⅵ
長いようでいて短い。

初めての口づけを終え、私は修内太から離れた。

「…………」

唇を重ねられ、驚いたような顔をする修内太。

そんな彼に微笑みかける。

「情も何もない人外の…冷酷な魔女の私でも、貴方には生きていて欲しい…人間として、最後までこの街で生き続けてほしいの…例え私の屍を乗り越えてもね」

それを最後に、私は修内太に背を向ける。

「合図と同時に走りなさい。そして振り向かずに蘭花の洋館を目指しなさい。お母様は私が足止めするから」

…私の言葉に、お母様の表情が変わった。

愛娘を見る母親の表情じゃない。

仕向けられた刺客を葬る、かつてのデッドゲイト当主の顔…。

「話はついたかしら…私としては娘を想っての行動のつもりなのだけど…」

「……」

背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

こんなに分の悪い戦いは初めてだ。

勝ち目のない戦いはしない。

勝算のない時は誰に何と言われようと逃げの一手。

『戦場では常に冷静たれ』を旨とする魔女にとって、この戦いは余りにも無謀すぎた。

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