heaven
「構わない。僕は取り戻したいものがあるだけだ」

ルシフェルは驚きに目を見開き、そしてすぐにその意を悟ったように
目線をそらした。

「そうか…だが、私はあまりおすすめしない」
「……悪魔のくせに何を理性的なことを言う?」
「馬鹿な。理性的なことではない。
私の身分が危ぶまれるのだよ」

クックッと喉の奥で笑い、ルシフェルはキラの頭をなでた。
長い爪が灯篭に照らされ、きらめく。

「知らないのか?私たち 魔 と 天使 とは、
 互いに互いの領域を侵してはならない。
我々が魂を食らっていいのは下界でのみだ
 このような決まりがあるように、
われわれは互いに手を結ぶことなどあってはならないのだよ」

「重々承知の上だ」

「ほう」

ルシフェルは姿をまた男に変え、指先を唇にあてて笑った。

「面白い。そこまでして君が取り戻したいものは何なのか」

「部下だ」

「数多くいる部下のうちの一人がそんなに大切だったのか」

「…さあな」

「わからんな、全く。ひとつの駒に執着したか」

キラは不意に目をそらした。
大切な。
そうか、彼の存在は自分の中でそんなにも 
重要な位置を占めていたのか
と、今更になって痛感させられる。
失ってから気づく とはまさにこのことかと、また自嘲の笑みがこぼれる。

「駒、か」

キラが静かにつぶやくとルシフェルは嘲り笑う。

「駒ではないだろうに」
「何を……」
「君が彼を取り戻したいなどと思うということは
 きっと君の中で“彼”が重要な位置を占めていたということだろうよ」

ルシフェルは優しく笑うだけだった。

「気づいていなかったのか?そこまで大切なものだったのなら、そうだね
 力を貸そうじゃないか。私も、この身を賭してそのゲームを楽しもう」

「ゲーム、か」

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