【短編集】communication
「千鶴。」


平太は、誰からも死角になるような場所で声をかけてきた。


私は、平太に背中を向けたまま言った。


「平太、別れようか。」


呟くような小さい声で。


「無理。」


平太は、即答した。


「だって。」


私は、平太の方へ振り向いた。


私は、涙目だった。


それを見られたくなかったのに。


最後ぐらい強がりを言いたかったから。


甘えてばかりの私だから。


平太は、私を優しく抱きしめて話し出した。


「親が大事なのはわかる。俺だって母さんが幸せになることを願ってるよ。けどな。それだけで千鶴を手放せるほど簡単な想いじゃないんだよ。俺らが別れてさ。親同士が再婚して、一緒に暮らしたって。想いは変わらないし。俺は隠せない。後でバレた方が親たちは後悔するよ」



「......」



私は、何も言えなかった。
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