抱けないあの娘〜春〜
「高村、悪いんだけど、さつきをバス停まで送ってくれないかな?こいつ筋金入りの方向音痴でさ。ホントは練習前に持ってくるはずのバッティンググローブがこの時間だ。このままほっておくと半日は家に帰れそうもないからな。俺、これから監督と今度の試合のミーティングがあるから行けないんだよ。」


「え!?あ、あ、あにょ諏訪先輩!!送っていくってぼ、僕がれすか!?」もう舌が絡まり過ぎて噛む寸前だ。


「今他に誰がいるんだよ。じゃ、俺時間だから行くな。さつき、ありがとな!高村、頼んだぞ!!」


と風の様に行ってしまった…


「何よ、菖汰ったら、筋金入りだなんて…そりゃさっきは反対側のバス乗っちゃったけど…でもちゃんとグラウンドに来れたもん。」


と天女、もといさつきさんは赤い小さな唇を尖らせた。


「あの、高村さんでしたっけ、私大丈夫ですよ。一人で帰れますから、練習戻ってください。足止めしちゃってごめんなさい。」


と、僕に一礼しグラウンドの外へ走り出した。


僕はまだ体が固まったままだったが、ふと手を見るとさつきさんのハンカチを握ったままだった。



僕は坂出に「悪い!!練習休む。コーチ達にはうまく言っておいてくれ!!」

と、坂出の返事を待たずに、グラウンドの外へ猛ダッシュした。
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