抱けないあの娘〜春〜
僕は、さっき下ってきた坂を戻り、走り出した。


グラウンドでは練習が終わったのか、スプリンクラーで水が蒔かれ、部員達がグラウンド整備をしている。

それを尻目にグラウンドを通りすぎ、僕は上のお寺に向かった。


こめかみから汗が流れる。吐く息が白く、視界を遮る。

お寺に着くと、ほの暗いお寺の周りは真っ白な梅が咲き乱れて、甘い香りが漂っていた。


さつきさんの姿を探したが、見つからない。


墓地の方へ走った。


すると


墓地の上にはもう一つ丘があって、そこには真っ赤な紅梅が一本だけ見事な花をつけていた。



その見事な紅梅の下に、白いマフラーと黒髪がなびいている。



ああ、まさに天女だ…



僕は何故か涙が出そうになった。




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