抱けないあの娘〜春〜


車で市内をぐるぐる廻った後、連れてこられたのは駅からそれほど遠くない河川敷の大きな橋の下だった。


この場所は…




菖汰が中学生の時までよくトレーニングしてた所だ。


大きな橋が屋根代わりになるから、雨が降っても素振りやボールの壁当てが出来るって、私もよくボール拾いを手伝ったりしていた場所だった。



ここなら…方向音痴の私でも、逃げられるかも知れない。



足と口の拘束が解かれ、私達は草むらへ投げ出された。



私達は肩を寄せ合いながら、後ろへ後退りする。



ニヤニヤと舌なめずりしながら男達がジリジリと近づいてくる。



私は可奈さんに小さな声で耳打ちした。



「可奈さん、落ち着いて聞いて。私の合図と共に走るよ。目指すのはあそこに見える公衆トイレ。逃げ込んで鍵を掛ければ何とか時間は稼げると思うの。わかった?」



可奈さんは声が出ないのか、私の言葉に必死に首を縦に振る。




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