抱けないあの娘〜春〜
「さつきさん…大丈夫ですか?もう安心して下さい。で…やっぱり僕に送らせてもらえませんか?」


抱きしめたまま、僕は言った。


彼女の目を見てしまったら、めちゃくちゃに壊してしまいそうな気持ちを押さえられなくなるからだ。


さつきさんは僕の練習着の袖を掴んだまま、コクリと頷くのがやっとのようだった。


僕達のそばの紅梅が、風に吹かれて儚い花を散らしていた。


僕達をそっと包む羽衣のように…
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