抱けないあの娘〜春〜


「あ〜腹減ったな〜!そういえば…この騒ぎでお昼食うどころじゃなかったな。さつき、何が食べたい?」


「私は咲哉が食べたいものなら何でもいい…だって私のせいで…お昼どころか咲哉の誕生日まで丸潰れにさせちゃったんだもん…いつもいつも咲哉に心配掛けてばかりで本当にごめんなさい…」


街角の街灯がさつきの涙ぐんだ瞳をキラキラと乱反射させる。


「そんなこと気にしなくていいんだよ。さつきが悪い訳じゃない。僕はさつきが無事だったってだけで本当に嬉しいんだからさ。気にしすぎ!あ、それと…これが落ちてたから、さつきに何かあったんだって感じたんだ。」
僕はポケットからさつきの携帯ストラップを出した。


「無くしたかと思ってたのに…ありがとう!咲哉が拾ってくれてたなんて…不思議。私ね…車で連れ去られた時、逃げなくちゃって必死だった。震えて動けないでいる可奈さんを助けなくちゃって。あんなに怖い思いしたのは初めてだった…けど、咲哉に会いたいって気持ちが私に勇気をくれたの。自分でも信じられないくらい。」


繋いだ手をぎゅっと握りながら、強い眼差しで僕を見つめるさつき。


「僕も…実は少し驚いてるんだ。僕がさつきを守らなくちゃとずっと思って来たけれど、本当はすごく芯が強くて真っ直ぐで…勇気のある素敵な子なんだって気付かされたよ。色んなさつきを知ることが出来て嬉しいよ。ますます…好きになった。」



するとさつきは僕に抱きついてきた。春の夜風と共に、さつきの甘い香りが僕を包み込む。





< 164 / 208 >

この作品をシェア

pagetop