抱けないあの娘〜春〜



「私…普段の優しい咲哉も素敵だけど、野球やってる咲哉はすごく楽しそうで格好いいの。試合前の集中した顔、仲間を励ます大きな声、泥だらけになってボールにくらいつく姿、ヒット打った時のあの笑顔も全部大好きなの。私はスタンドで見守ることしか出来ないけど…せめてこのキーホルダーと御守りでそばにいられたならいいなって思ったの。」



さつきはきちんと正座をして真剣な瞳を僕に向け、僕の手を握った。



「私ね、ドジでおっちょこちょいだから今まで家族や友達にもずっと迷惑かけて来たんだと思うの。だから、皆の言うことを聞いて生きていれば間違いないって思ってた。でもね、咲哉と出会ってから…それは違うってことに気付いたの。」



僕の手を握る力がぐっと強くなる。



「目標を持って真剣に野球に向き合う咲哉がうらやましくて…私、こんな自分じゃ咲哉に相応しくない。だから変わろうと思ったの。大学も付属の女子大じゃなく、他の大学を受験して環境を変えてみたいって。菖汰や両親にはかなり驚かれたけど…目標があって今を頑張ってる咲哉と方法は違うけど、私やってみたいの。自分の力で。」



そう真剣に語るさつきは…



今までのどんな場面のさつきも美しいと思ってたけど




眩しいくらいの美しい輝きを放っていた…




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