抱けないあの娘〜春〜
「高村、さつきは無事にバスに乗ったか?」



寮の大浴場の入口で、諏訪先輩にばったり会った。



「あ…は、はい。」



うつむき一言答えるのが精一杯だ。



脱衣場で諏訪先輩は「お前、さつきに何かしてないだろうな!?」


と脱いだシャツを振り回しながら冗談ぽく言った。



背筋が凍った。



何も…してない…と言えるのか!?



会ったばかりのさつきさんを抱きしめました。そして恋をしました。

なんて言えっこない。



「い、いや、無事バス停まで送りました。」



諏訪さんの顔を見れない。



「そっか、ありがとうな。で、今度の試合、お前スタメンだ。頼んだぞ。」


「え、あ、はいっ!!でも諏訪さんは…」



「俺、先月膝痛めたろ?医者が言うにはまだ無理は禁物らしい。夏の甲子園予選に照準を置けば、今は温存ってことだ。高村、俺はお前の事結構買ってるんだぜ。こいつなら俺の替わりを任せられるって。」



「はいっ!!諏訪さん、頑張ります!絶対勝ちます!!」


「ははっ、頼もしいな。お前センスはいいが、後は気持ちだ。グラウンドでは思いっきり声出していけ!!」

と肩を叩いた。


「はいっっっ!!」



脱衣場に僕の声が響いた。


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