抱けないあの娘〜春〜
「おい、咲哉!!部活遅れるぞ!!」


坂出だ。こいつとは小学校の時からの腐れ縁。気の置けるいい奴だ。


「わかってるよ。今行くから。ちょっと待ってて…薫ちゃん♪」

「薫ちゃんって呼ぶなっつってんだろがっっ!!」


顔を真っ赤にしてデカイ図体の坂出が、恥ずかしそうに周りをキョロキョロしてる。


こいつは僕の妹の彼氏でもある。


妹の真咲は中学3年で、無事難関を突破して、宝塚音楽学校に来月入学が決まっている。


かなりの遠距離と坂出の寮生活でこれから大丈夫かと心配したが、坂出も真咲もお互いの夢の為だからと受け入れ、毎日メールで気持ちを繋ぎ合っているようだ。揺るがない想いが羨ましいよ。


僕と坂出は1年からベンチ入りし、今年の夏の甲子園へ向けて日々練習を積んでいる。

毎日くたくたなのに、毎晩真咲とメールのやり取りを小まめにしている坂出と、可奈からくる「一体いつ会えるの?メールも返事くれないし…彼女をこんなにほったらかして平気な咲哉って、何考えるの?」と責められている僕との違いは明らかだった。



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