【完】キス、kiss…キス!
《姫さん、まだ尚志に怒ってたりする?》


「怒ってはない、けどさぁ……」


伝えようもないくらい、なんかもやもやしているんだ。


だから、何日もこうやって雲隠れして、皆に迷惑をかけてしまっている現状。


《実は、さ。姫さんの気持ち分かるから言いにくかったんだけど、尚志、姫さんのマンションの玄関で、ずっと待ってんだわ》


そして、少しの沈黙の後に早苗ちゃんに告げられたのは、予期せぬ事態だった。

「……え?だって、合鍵持ってるのに、なんで?」


《あいつ、年齢のわりに落ち着いてるなんて思われてるけど、ホントはガキみたいに頑固だし、スッゴく不器用な奴なんだよ。姫さんは自分のせいで傷付いてるのに、ぬくぬくと上がり込めないからって、だから、ここで待ってるって、三日間水以外何も摂らないでうずくまってんだ、マンションの玄関先に》


うずくまってるって、ちょっと待って、だって、今……!


「今、雨降ってるのに?こんなに、いっぱい降ってるのに?」


外に響くザーザーという音は、こっちからも早苗ちゃんの受話器越しからも聞こえるのに。
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