シェイクとルシア~黒き銃を持つ二人~
 事件の当事者であったシェイクは校舎を少し歩いただけで昔の悪夢が蘇って体調を崩してしまったが、この事件を知らないルシアでさえも顔色が青くなってきた。当時の記録で残ってある写真や教室の風景はそのまま残っているため、全てが生々しい。犯人が撃ったであろう銃弾が教室の壁を抉り、その周りに血痕がシミとなって残る。


「しかし、こうもリアルに残してあるのはどうかと思いますが?」


 ルシアがしんどそうに体をかがめ深呼吸をする。彼女とは対照に背筋を伸ばし凛としている館長はこの光景にも顔色を変えない。さすがこの記念館で働いているだけはある。


「いえ。これくらいリアルに残さないと本当の意味で人々の心に残らないと思います。この国が始まって史上最悪の事件ですから」


 館長がそれより……。と話を変えてきた。口調は先程より弱い。


「それより……。あなたのお連れ様、大丈夫でしょうか?少し歩いただけでああなってしまうお客様はあまり見ませんが、このまま見学をなさいますか?」


「大丈夫だ。俺はここにいる」


 教室に男性特有の低い声が聞こえた。二人の女性が声のする方をむくと、そこにはシェイクがいた。


「大丈夫ですか?あまり体調が優れないのでしたらここで見学を終了された方が……」


「いや、俺は行きたい。この国で起きたことがどう伝わっているのか見たいんだ」


 シェイクの目を見て館長はやれやれと言わん表情で溜め息をついた。これ以上は行っても無駄と悟ったようだ。


「分かりました。ですが、もし体調が悪くなったと私が感じたらそこで見学を終了させます。これだけは了解してください」
 

二人が二つ返事で了解してツアーが再開された。
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