桜舞~ひらり~
Story⑦ 背中
PM8:40
ショーが終わり、
人の流れに合わせて出口へと向かった。
社長に家まで送ってもらう車中で
アタシはあの時の感動を
どう伝えたら良いのかを必死に整理し
少し興奮しながら、話していたけど
社長は何度も観ているせいか
素っ気ないほど、クールだった。
そして家に着き、
カバンから鍵を取り出した時
ふと、カバンの中身の少なさに
違和感を感じた。
冷たいコンクリートにカバンを置き、
広げて確認する。
“携帯がない…”
途端に冷静になって思い返してみた。
「やばい…会場だ」
ショーが始まる前に時間を確認したのが
最後だと気付いた。
社長の電話番号を得る手段を考える前に、
アタシはすでに会場に向かっていた。
そして、少しの期待をしながら、
駅の公衆電話から自分の携帯に
電話してみたけど、
やっぱり誰も出てはくれなかった。