腕時計

幻覚

ズッシリとした重さから純金製だということはわかるが、メーカーやシリアルナンバーその他刻印されている文字が一切なかった。

あるのは12と6の数字ふたつ。それを指している長針がひとつ…待てよ、この時計短針がないじゃないか!

長針は6を指しており、動く気配はない。


「なんだか不気味だな。」


オレはテーブルに時計を置き、ソファに転がり、テレビをつけた。


「そういや昼間のひき逃げ、ニュースでやってないかな?」


チャンネルを変えていくが特にそれらしき報道はなかった。


「やっぱり、やってないよなー、こんな田舎町のひき逃げ事件なんか…」


ピンポーン


不意に玄関のチャイムが鳴った。窓から外を伺うと、家の前にパトカーが一台停まっていた。


「マジかよ。」


ふと、テーブルの上の腕時計が目にとまる。
長針はさっきの6の位置から15度ほど、数字でいえば7の位置まで動いていた。


「おっと、こんなとこでつったってる場合じゃなかった。」


オレは急いで玄関まで走っていき、ドアを開けた。

が、誰もいなかった。パトカーすら停まっていない。

オレは呆気にとられた。玄関のチャイムは鳴った。パトカーが停まっているのもこの目で確認した。

出るのに躊躇したとはいえチャイムが鳴って玄関を開けるまでに1分もかかってない。


「疲れてんのかなぁ…しかし幻覚や幻聴にしてもやけにリアルだったよな。」


それからオレはなんだか眠くなって2階の自分の部屋に引き返し、ベッドに入った。
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