Thanks
(雛姫side)

『早く出ろ!』
『雅こそ早く!!』

それからしばらく争いは続いた。

だから私は出れないんだってば!

争ってもきりがないので…

『とりあえず雅がのぼせるの待とう。』
『んじゃ俺も待つ。』

あんたは待つな。
ってかお湯が白くて良かったー…

『つか俺、温泉って初めて。』
『へぇ… 家族で行ったりしないの?』
『まぁねー うちの父さん仕事で忙しいみたいでさ。』

雅は前髪をかき上げて言う。
そのしぐさに少しドキっとした。

『お父さんって何してるの?』
『デザイナー…?』

何故、疑問系なのか気になるが…
とりあえず話は続く。

『雛姫のとこは?』
『うちは公務員。 市役所で働いてるよ!』
『そか! 公務員が1番だよな! 休みも安定しててさ。』

雅はやっぱ寂しかったりするのかな。
そりゃ寂しいよね。
16で一人暮しなんて…

ってか…

『私、のぼせてきた…』
『弱いなぁ…』

真っ赤な顔の私を見て雅は苦笑する。

『外の風にあたりたい…』
『あたれば?』
『無理…』

紗奈も真由も何で露天風呂に来ないんだぁ〜?!

そう思ったその時、「ガラ」っと扉の開く音がした。

真由が来てくれたんだ!
なんて期待はもろくも崩れさる。

開いたのは男湯の扉…

『やべッ 雛姫もぐれ!』

雅は言うと同時に私の頭を押して湯の中に沈めた。


『雅ずるいじゃん、貸し切りにしちゃって!』
『あ…ははは…』

入ってきたのは新と功ちゃん。

『目ぇ良さそうだな…功ちゃん…』
『何言ってんの、いきなり…』

功ちゃんは意味不明な台詞に苦笑いを浮かべる。

3人はそのまま他愛のない話を続ける。
その間も雅はグイグイと頭を押し付ける。

しッ 死にそ〜!!
早く出てって!

水中で必死にそう願った。
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