Thanks
【ねぇ、生きてると思う?】

これがハルと俺の初めての会話…


╂叙情恋歌╂

『寒ぅ~…ッ』

あの日の昼間は雪が降っていて夜には一面、銀世界が広がっていた。

俺は相変わらずの家出少年で、毎日が宿探しに忙しかった。

その日は友達の家に泊まりに行く予定で細い裏通りに向かっていた所。

そこで見たもの。
金髪の男が壁にもたれて、空に向かい煙草をふかしている光景。

そして奴の足元には血まみれの男……

『ねぇ、生きてると思う?』

と突然、笑顔で口を開く謎の男。

『生きてて…ほしい』
『あはっ、俺もー』

金髪の男は屈託のない笑顔を向ける。
その顔がそこらへんの女よりうんと綺麗で、「勿体ない」と素直に思った。

綺麗な白い肌には返り血を浴びたのか赤い雫。
争いが激しかったのか両者の服装はこれ以上ない位に乱れていた。

『彼女を盗ったんだよね』

男は煙草を地面に捨てる。

『そりゃ……腹立つわな』

彼女を盗られた事くらいじゃ、俺はここまで怒らないだろうけど。
それだけ人を愛せる事を羨ましく思ったり、思わなかったり?

『あ、盗ったの俺なんだけどね』
『……はぁ?』

お前が加害者かよ!!

『馬っ鹿みたいだよね~? 他の男に自分から股開くような女にマジになっちゃってさ』

男はそう言うと少し寂しそうな笑顔を見せた。

『確か同じ学校だよね? 俺、里山ハル』
『え……あ、連城一久』

言われてみると聞いた事のある名前。
でも同じクラスではないな。

『連城って総合病院の?』
『……そうだけど』

あー、お決まりの質問。
皆、必ずそう聞くんだ。

そんでもって、何も知らないくせに【すごい家族だよね】って言う。

『すごいね、一久』
『は?』
『やっぱ期待されたりするだろ? 俺だったら絶対にグレてるし』

無邪気に笑うハル。

初めて「自分自身」が褒められた。
「医者の家庭」じゃなく俺自身。

『あー…… 俺、こいつが目ぇ覚ます前に帰るわ』

足元に倒れた男を見下すように見ると、ハルは背中を向けて去っていく。

『……変な奴』

これが俺、連城一久と里山ハルの出会い。
この時、俺達は高校1年生だった。
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