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【一久が代わりに抱いてよ】

『ハル、それって……』

ハルの冷たい瞳の前で、俺が口を開けたのは、あれから数分経ってからの事だった。

冷たさの中に潜む、威圧感。
それに、完全に負けてしまったようだ。

『嫌いな女でも抱ける薬って無い?』

冗談混じりに問い掛けるハル。

俺は何も答えられなかったし聞けなかった。
嫌いな女って誰……?

無言で立ち尽くしている俺の頭にポンっと手を置くとハルは少し微笑んだ。

『冗談に決まってんだろ。 ちょっとからかっただけだよ』

嘘が嫌いなくせにハルは嘘をついた。
明らかに、何かをごまかすための嘘。

俺だって、それに気付いたけれど……
何も言えなかった。

あまり聞き過ぎて、いざこちらが聞かれた時に答えられないから。
奈々の事、誰にも話したくないから……

『あっ! 明日、体験入園だ』

ハルは突如、話題を変える。
180度違う内容の話に……

『俺、案内係! 一久は?』

よく、まぁ、コロコロと顔を変えられるな。
感心するよ。

『……何も係になってないし』

係なんて面倒なだけだし。

『マジ? んじゃ一緒に案内係やろ?』
『は?』
『決定な! キャンセルは受け付けませ〜ん!』

ハルは強引に決めると有無を言わせないように足早に逃げていった。

……人を疑う事知らんのか、あいつ。
俺なんかにペラペラ話したりして。

【俺、一久好きだし】

あの言葉、本当か?
もし本当ならすごく嬉しいけど。
つか、俺、キモ……
BLかっつーの。



次の日の体験入学…

『おっはよん』

ハルは毎度のごとく満面の笑みで挨拶する。

……昨日と何か違うような。

『あッ、髪…!』

髪だ!
昨日まで金髪だった髪にピンクのメッシュが入ってる。

『桜のイメージです。 中学生に懐いてもらうにはコレくらいしなきゃ』

得意げに言うハル。
その後ろからは大きな影が……

『里山!! 金髪ならまだしも2色は許さん! 恥さらしにも程がある!!』

大きな影、いや、生徒指導の先生はハルを引きずるように連れていってしまう。

金髪だけでも人目を引くっていうのにピンクとは。
やっぱり変な奴…
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