Thanks
スーツといえばサラリーマン。
ずっとそう思ってた。

だから店ではスーツと太一に言われた時「あんなダッセーの着るんかい」と思った。

だけど…

『ねぇッ ちょーうカッコイくね? 俺!』

初めて違いを知った。

『佳晴… 君みたいのを世間一般でナルシストと言うんだよ?』
『…』
『違う?』

太一は勝ち誇ったように笑うと煙草を一本こちらに投げた。

『ありがと。』

そういえば家を出てから煙草は吸ってないっけ…

金もないし、家もない。
行く宛すらない。

あの日、太一に会わなければ俺は小汚い浮浪者だったかも…
ってかどっちにしろ出血多量で死んでるか…

『な、佳晴。 ハルってどうかな?』
『は? 何が?』
『佳晴の源氏名! 本名だと何かと厄介だろ?』

源氏名…
そう聞くと夜の仕事だと再認識する。

『えーよ、ハルにする。』







ハル…
その名前は太一に貰った大切な名前だった。

だからその後、生まれた新しい命にハルと名付ける事に少し抵抗があった。


でも俺は渋々、小さな赤ん坊にハルという名を譲った。

だってハルが生まれると同時、俺は源氏名を捨てる事を強いられたのだから…

大切な大切な命の代わり、俺は太一の元を去るよう命じられた…






『…で、ここが佳晴の部屋!』

初仕事を終え、朝日を見た後で太一はある場所に案内してくれた。

歓楽街から少し外れた所にあるマンション。
そこがこれから俺が住む家らしい。

『めっちゃ広いねんけど… 家賃はどうなってん?』
『もちろん給与から引かせていただきます。』
『てめッ…』

ちゃっかりしてんなぁ、ホント…

『まぁ、客に払わせるってのも1つの手だけどね?』
『え…?』
『佳晴の好きにしたらいいよ。』

太一はそう言ってニッコリと笑うと部屋の中に入っていく。

【客に払わせるってのも1つの手】

その言葉に驚いたあの時の俺って…
まだホストという仕事を理解していなかったんだろうなぁ…
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