Thanks
『父さんっ いい加減、部屋から出てってよ!』

ある日の日曜日、ハルは部屋の掃除の仕上にそう言った。

『今日も由希が来るん? 頼むからガキ作んなよ?』
『いや、あんたに言われたかないわ。』


幼い頃「お父さんお父さん」と後をついてきた、あの子供は何処に行ってしまったのか…
今は父親より恋人を選ぶ大人になってしまった。


『ねぇ佳晴くん… この服、変かしら?』

ハルの部屋から渋々出た俺にそう声を掛けたのは詩織…

『いや、よく似合うよ… 何処か行くの?』

お世辞なく詩織はあの日、出会った日のままの美しさで今もいる。

『少しお買い物に… 今日はお客様が多いから…』

それは逆に悲しいね…
俺と過ごした記憶さえも、あまり無い。

残ったのは捨てられた事への憎しみと悲しみ…

自業自得ってやつですね…

『買い物はいいから… 何か食べに行こうか。 詩織の好きな物を…』
『でもハルが…』
『金でも置いとけば彼女と食べに行くんちゃう?』
『…そうね…』

罪悪感からくる罪滅ぼしか…
はたまた、愛情か…

まだよく判らないけど、あれから時間さえあれば詩織の傍にいる。

『ねぇ? 私、たまには貴方の好きな物が食べたいわ…?』
『大丈夫… 俺と詩織は味覚がよく似てるから…』

俺の言葉に複雑な表情を浮かべる詩織。

遠慮してんのかな?
でも嘘と違うよ?

俺達はいつも食べたい物が一緒だった…

【何で私の好きな物がわかったの?】
【別に… 俺が食いたいもん作っただけ】

初めて出会った時もそうだったよね。

『とりあえず金と書き置きして行こうや。』
『うん…』

財布から出した一万と「適当に食って」のメモを残し、俺は詩織の手を取った…
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