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【俺を抜いてみなよ】

16歳の子供(ガキ)だった俺は、太一の挑発を上手く流す事が出来なかった。

絶対に抜いてやる。
それも太一とは違うやり方で…

そう心に誓い俺は毎晩、店に立った。



『じゃあハルくんって地元の人じゃないんだぁ!』
『そっ、めっちゃ田舎者。 実家の前は田んぼやしなー。』
『え~、意外!』

だけど太一に勝つ秘策なんて無かったわけで…
とりあえず客との会話を楽しんでた。

ホストとして相応しくはないけど、友達は沢山出来た。

彼氏にフラれたばっかのOL。
旦那が単身赴任中の主婦。
年齢ごまかして来る未成年。

話してるこっちも楽しくて…
気付いたら周りは人だらけ。




『天才…っていると思う?』

ある日、うちに遊びに来ていた太一がポツリと呟いた。

『そやなぁ… 東大とか入っとる奴、凄いと思うけどなぁ…』

でもきっと、その人達は人より努力してるんだろう。

『俺はねぇ、佳晴を天才だと思ってる。』
『……は?』

太一の言葉につい笑ってしまう。
だってそんな事、言われた事ないから…

『あかんて俺、めっちゃ馬鹿やしッ 褒めたって何も…』
『頭じゃないよ。 生まれ持った才能の話…』
『才能…?』
『佳晴の場合はまず外見。 それと人懐っこさかな?』

自信満々に言う笑顔に返す言葉が見当たらない。

たまに太一は難しい事を口にするんだ。
俺には理解出来ない難しい事…

『佳晴がそこにいるだけで、人が集まる。 立派な才能だよ。』
『…いるだけで…?』

…確かに、孤独だと思った事はない。
必ず傍には誰かいたし…

つい数ヶ月前に来たこの街にも、もう沢山の友人がいる。

『俺が言うのも可笑しいけど… 佳晴はそれ以上の営業をしなくていい。』
『え…?』
『そのままでいれば、近いうちにNo.1にまで昇れる。』

真剣な顔をして言う太一に俺は何も言えず、ただ黙って頷いた。

抜かれたくないはずの太一からの助言…
おかしいと、先に気付くべきだったよ…
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