Thanks
『今月の売上… もう見たか?』

あれから2ヶ月。
太一は俺を事務所に呼び出して、そう尋ねた。

『見たよ。 どうせ「残念でした」とでも言うつもりで呼んだんやろ?』
『まさか。 逆に「おめでとう」を言うつもりだよ。』

にっこりと笑い、机にワインを置く太一。
その行動に俺は拍子抜けしてしまった。

『…やっすい酒やん…』
『ん? No.2には調度いいでしょ?』

…やっぱイヤミかよ…



そう…
この日、俺はHopeで2位という結果を残した。

太一とはまだまだ差があるが、確実にその差は狭まっていた。




『なー、ハル。 あそこの噂知ってる?』

店が閉まった深夜3時。
ホスト仲間の男がそう言って窓の外に見えるお店を指差した。

『…あんな店あったっけ?』
『この間、Openしたばっかのヘルスらしいよ?』
『ふーん…』

ここは歓楽街…
店が一軒増えたぐらいじゃ、誰も動じない。

潰れたって誰も憐れまない。

ついこの間も一軒、うちと同じようなホストクラブが潰れた。

【親父から受け継いだ店】

そう思うと、太一の背負うモノのデカさを思い知る。

『で、噂ってのがヤバイんだって!』
『ヤバイって?』
『素人の女引っ掛けて、働かしてるらしいぜ? このご時世に…』
『へー…』

それは確かにえらい事だ。
だからといって何をするわけでもないけど…

『あそこデリバリーもやってんじゃん? 絶対、本番もやらしてるよなー!』
『…』

本番…か…
それはHopeでもあるだろう?

現に売上がトップクラスの人間は皆やってる。

本番が無いのは俺と…太一だけ…

『…汚ねーねぇ…人間…』

薄汚れた歓楽街…
ここを見てると思い出すよ。

あの母親の姿を…
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