Thanks
うちの母親は決して悪い人じゃなかった。

料理は上手いし、家事も全て熟す。

だけど…
すごく寂しがりやだった。

忙しく中々、家に帰れない父親の穴を埋めるように男を呼ぶ。

【お母さんの友達よ】

そう言って招かれたはずの男は夜になっても帰らない。


夜中に聞こえる母親の声が…
床が軋む音が…

そしてそんな母を放任する父が…


全てが許せなくて2人を責めた。

【お前だってそうしてデキたくせに】

酒の勢いからか…
父からはその一言が返ってきた。

初めに気付くべきだったんだ。
「俺は誰にも似ていない」
その真実を…





『馬っ鹿みてー…』

くだらない思い出に浸る自分も何だか阿呆くさくて、とりあえず考えるのを止めた。

煙草を口にくわえ、店の外に出るが風が強くてライターの火が上手く着かない。

『あげる…』

突如、聞こえた声に驚き顔を上げる。

するとそこには目を見張るくらい綺麗な女がいた。

『…ターボライターだから…着くと思う…』

だけど何処か透明感があって、消えてしまいそうな…

『ありがとう… でも借りるだけで…』
『いいの、またお店で貰うから…』

彼女はそれだけ言うと、背中を向けて去っていった。

まだ幼さの残る姿には似合わないドレスにヒールの高い靴…

貰ったライターには明らかに風俗店だと思わす店名。

【素人引っ掛けて】

…その類か?

『ま、いーけどね…』

俺だって、ある意味じゃ引っ掛けられた事になる。

だけど…

『可愛かったよなぁ…マジで…』

連絡先くらい聞くべきだったと後悔したよ。
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