Thanks
「馬鹿かお前」

ああ…
太一の声がリアルに頭に響くよ…


『何…ッ?!』

しばらく走った後で女は息を吐き出し、そう言った。

いや、俺も解んないから…

『せめて相手選べや…ッ あんな不細工でえーんか?!』

仕事なら選べないのも仕方ない。
だけどさっきのは…

《ぐー…》

…ん…?
腹の…虫…?

『お… 俺とちゃうで?』
『うん… 私…』

特に恥ずかしがる様子もなく女は答える。
その様子に余計に笑いが漏れた。

『とりあえず今日は誰でもいいの… 先にご飯食べさせてくれるなら…』

…まさか、それであの不細工と…

そう考えている間にも腹の虫は鳴り止まない。

『…とりあえず…うちで飯食う?』

そして恐らく年上だろう女を保護してしまった俺だった…







『…美味しい…』
『そやろっ♪ 俺特製、クリームパスタやで!』

家に帰りパスタを茹で、作り置きしておいたクリームソースをレンジでチン。

たかがそれだけの食事を彼女は嬉しそうに平らげた。

『何で私の好きな物がわかったの?』
『別にー… 俺の食いたい物、作っただけ。』

悪いけど料理は得意だ。
パスタだってクリーム以外のソースが作れる。

まぁ、俺の味覚で作るから美味い保証はないけど…

『そういや名前、何ての?』
『…詩織…』
『…それはお店の名前?』
『…うん… お店でも呼ばれてる。』

彼女…いや、詩織はそう言ったきり黙り込んでしまう。

『あー…俺は…』

沈黙は苦手だ。
騒がしければ騒がしいほどいい。

俺は自己紹介しようと口を開く。
しかし詩織に止められた。

『知ってる… 貴方、Hopeの二番手でしょ?』
『に…』

二番手って…
言い方、ものすっごく悪いですけど…

『ありがとう、ごちそうさま…』
『あ… 食器は流し台に…』

…なんつったっけ…
尻尾がヒラヒラした金魚の種類…

詩織が歩く度に揺れるワンピースの裾が、金魚のそれを思わせた。

これ以上に美しい人間がいるのだろうか…
本気でそう思った…
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