Thanks
『んで? 寝坊した理由は何かなー?』

翌晩、仕事に出勤した俺は事務所で太一に責められた。

だって…
考え事してたら眠れなかったんだもん…



詩織はあの後、何事も無かったかのように帰っていった。

俺には指一本と触れさせない…
あれが彼女の仕事…

『太一… ヘルスで働く女って…楽しんでるんかな…』

快楽を売り物にする。
俺達、ホストとは違う…

『わけ有りの人が多いだろうね… 好きで選ぶ人もいるけど…』
『…そっか…』

俺の中での勝手な解釈。
きっと彼女は助けを求めてる。

逃げ出したいと思ってる。
だって俺、彼女の笑顔を見た事がない…


『佳晴… 恋愛は禁止、覚えとけ。』
『…了解…』

Hopeに入る時「恋愛禁止」というルールを嫌という程、教え込まれた。

今更そんなヘマはしない。

だけど…
少しでいいから、彼女に笑ってほしい…

そう思ってしまった…




『ヘルス…かぁ…』

あのライターで火を着ける度、店の中の様子が頭に浮かぶ。
今ごろ、何をしてるだろう…

『ハルくん、やっぱ興味あるんじゃーん!』

そっと呟いた俺に客の1人がそう言った。

『ちゃうわ、ボケ…』

興味あるわけでも、もう一度お願いしたいわけでもない。

『あそこってデリヘルもやってるじゃん? たまに出てくとこ見るけど皆、綺麗だよねー…』
『ふーん…』

ただ君の笑顔を見たいだけ…
君の透明な横顔が忘れられないだけ…

『そんな事より何か頼もうか! ハルくんは何飲みたい?』
『…そっちのオススメで! 俺、何が美味いかまだよく解んないから!』

どうやら俺は、変な病気にかかってしまったらしい…
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