Thanks
何度、一緒に朝日を見ただろう…
詩織と話す事がまるで日課のようになっていた。

『また俺、2位やってん… 何で太一はあんな稼げんのやろー…』

愚痴を零したり他愛のない話をしたり…
正直、凄く楽しかった。

『でもハルくんはまだ入ったばかりでしょ? 凄いじゃない…』

いつの間にか彼女も自然体で接するようになっていた。

邪魔なハイヒールは脱ぎ捨て、ベッドでごろ寝。
俺のシャツも詩織のドレスもいつもシワシワ。

まるで昔から傍にいたような安心感を感じた…





『私ね、身内がいないの。』

いつだったか、詩織は夜景を見ながらそう言った。

『だから自分で生きなきゃ…』

ようやく働く理由を知る事が出来た。
詩織は懸命に生きていたんだと…

知ったと同時、俺は詩織と唇を重ねていた。
今更?と思うかも知れないが、詩織とキスしたのは初めてだ。

『…避(ヨ)けんくてえぇの…?』

素朴な疑問を投げ掛けると詩織はフッと笑って答える。

『だってハルくんが買った時間よ…?』
『…そうっすね…』

他意の無いキス…
詩織はただ仕事として熟しただけ…?

このまま押し倒したとしても、きっと抵抗はしないだろう。
そう思ったら凄く悔しいね…

悔しいけど…
もう一度、キスだけ戴こうか。

『…ッん…』

どれだけ深く舌を絡めても…
優しく誘っても…
詩織は動こうとしない。

舌を奥底で丸め、ただ事が終わるのを待つだけ。

『……なるほどね…』

気付いてしまったよ…
どれだけ仕事のフリをしても、本当の詩織は「キス」に慣れていないって…
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