Thanks
【お客さんが減っただけ】

とんだ勘違い…
詩織にとって俺の所に来る事が幸せなんて、ただの思い込みだ。

俺なんか、客の一人にすぎない…

『完っ璧…フラれた…』

時間は金でいくらでも買える。
でも詩織は買えない。

どうしたら、俺の傍におけるのかな…?







『ハルくん元気ないねー? どうしたの?』

あれから数日…
詩織の言葉のショックから、まだ抜け出せないでいた。

『何もないよ? それより何か頼もうか?』

よく来るお客さんからは口々に「元気がない」と発せられる。

自分でも重症だと思ってるよ。
確かに女にフラれる事は慣れてないけど、ここまでショックを受けるなんて…

同情は愛情へ…
いつしか詩織中心になってた。
詩織の行動1つに一喜一憂してた。

『ッあー! 俺らしくない!』

こんなのは可笑しい。
こんなの俺じゃない。

俺はもっとマイペースな人間のはずだ…








『マイペースにも程がある。』

そう…
太一にこう言われる位…

『客と遊びに行くわ、プライベートで会うわ… おまけに飲み会まで…』

太一は呆れたように言うと、茶封筒を俺の手の平に乗せた。

『給料…?』

今までより重みを増した「それ」に俺は不信感を抱く。

『今回の売上は今までで1番良かった。 少しだけど昇給だよ。』

そう言って不敵に笑う太一。

『やっぱ俺のマイペースさがいいって人もおるんやろな。 売上が上がるって事は…』
『調子にのるな。』

…だって嘘とちゃうやろ。
事実、リピーターだって沢山いるし…

『ま、確かに佳晴の「それ」は客ウケがいいから… これからもペース乱さないようにね。』

太一はそう言うと俺の頭をポンポンと押す。

『…どーも…』

俺の…ペースか…
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