Thanks
あの日の事は生涯、忘れない。
目を閉じれば思い出す…
初めて詩織を抱いた夜を…



『処女って…有り得んやろ…』
『だってお店では本番禁止だもの。』

詩織は涙ぐんだ瞳を腕で擦り答える。

『…痛かったやろ…? ごめんな?』

情けない事に、俺は詩織が悲痛の声を上げるまで気付けなかった。

男として、それってどうなん?

とりあえず引き出しからパジャマを取り出し、詩織に渡す。

『ありがとう。』

そう言ってパジャマを着た詩織は何だか小さくて可愛かった。


『いいマンション… 家賃って高いの?』

詩織は窓から見える夜景をみながら、そう呟く。

『さぁ… 給料天引きされてるから、わからん… 安くないんとちゃう?』
『ふーん… お金持ちなんだね…』

間違いではないけど「お金持ち」という言い方は癖があるな…

ふと詩織を見ると不安げな顔で外を見ていた。

『…金持ちの娯楽と違うから… 詩織の事は…』

俺は詩織を買ったわけじゃない。
ただ「恋人」として傍にいてほしいだけ…

『ありがと、ハルくん…』

振り返った詩織は少し照れ臭そうに笑っていた。







未だに解らない詩織の気持ち…
俺は詩織から「好き」という単語を聞いた事がない。

出会って18年…
俺達もいい歳になった。

今更、君の気持ちを確かめるのも何だか気まずいよ…

『こんなに美味しい物食べて… 何だかハルに悪いわ。』

レストランで昼食を食べた後、詩織はポツリと呟いた。

『大丈夫やって… ハルも子供とちゃうねんで? 由希だっているし…』
『でも…』

詩織は少しハルを気にしすぎだ。

ホストだったハルと息子のハル…
2人はいつまで重ねられるんだろう…

『俺はここにいるのにな…』
『え…?』
『…べっつにー…』

まぁ、好きなだけハルを想うといいさ。
いつか…佳晴がハルを越してみせるから…
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